#003100
俺たちゃみんな、何かしらそういう拠り所がないと心細くってさ、世渡りができねぇんだよ。
#003101
損な男だ。持ち得ている優れたものを足してゆけば、彼の算盤はけっこうな桁を弾き出す。なのに、外見がそれを御破算に戻してしまう。
#003102
そうだ。両極は相通じる。正は負に通じ、負はころりと正に変わる。
#003103
心の一部は納得する。が、別の一部は、信心してもいない神様を拝んでいるときみたいに醒めている。折伏され切らないものがあるのだ。
#003104
が、今となっては離れる契機が見つからぬ。一朝事が起き、この皺腹かっさばいてお詫びする段にでもなろうものなら話は早いが、そのような重職とは生来無縁じゃ。天命が尽きるまで、おめおめ厄介者として生きるより術がない。
#003105
おかしなことを教えていただきたいのですよ、ご隠居。もともと、この世間はおかしなところでございますからな。
#003106
確かに、ここに嫁に来るにはかなりの度胸と度量が要る。それにこの早口では、想う女ができたとしても、成就は難しいだろう。女の方が、口説き文句を聞き取れまい。
#003107
お人好しの血筋、脈―――である。
#003108
「実のあることは言わないが、どうでもいいことばかりぺらぺらと」
「ありゃ本人にとっちゃ花も実もあることなんだよ」
#003109
――それはよしにしておきましょう。ずっと遠くから見て、さぞ甘いんだろうなぁと思っている方が楽しゅうございます。