#007770
おれのような共感能力が薄い人間にこそ神の助けが必要だとあんたは考えるのだろうが、必要なのは神の助けではなく、人の理解だ。
#007771
「あんたは、酔っ払って記憶をなくしたりしたことはないようだな」
「ありません」
「記憶がない間、自分がなにを話し、なにをしていたかわからないという不安は、経験した者でないとわからないだろう」
#007772
では、このおれはいったいだれなんだ?
#007773
自分が信じる対象に半生を捧げてきた生き方そのものは人として尊敬できたから、その人が愛するものを理解できないからといって悪し様に言うほど、ぼくは子どもではない。
#007774
治療を続けていればいずれ癒えます。そうしてから、その苦しみが天罰だったのかどうかを顧みるのがよろしいかと。我が身を振り返るのは人生を豊かにする一つの方法です。
#007775
結局のところぼくは、ぼく自身を信じ切れていないのかもしれません。
#007776
「悪魔に魂を売ったのです、あなたは」
「おれの魂など安物だ」
#007777
死者というのは忘れ去られたときに完全に死ぬのだとすれば、生きていたとしても、だれからも忘れられて生きながらに死ぬこともある。
#007778
「おまえはいつもそうだ。余計な冒険をして転ぶ」
ぼくは負け惜しみを言った。「そのかわり、豊かな世界を生きてるんです」
#007779
この男に褒められると、どういうわけか、嬉しくなってしまうのだ。