#008440
刀は、抜くより、おさめるほうがむずかしいものだよ。
#008441
あの頃――十六の頃の自分のことなど、思いだしたくもない。
#008442
だけど、おまえが思いだすのがいやだといった、そういう旅が……ひとつ、ひとつの旅が、おまえを、おまえに、してきたんだろうな……。
#008443
次から次へと起こる難題に必死で対応しつづけてきたけれど、ものごとはいったん下降にむかうと、それを止めるのは容易ではない。
#008444
運命に、情けはない。我が子に伝えたいことがあるから、ほんのすこしだけ生きのびさせて、と必死で願ったとしても、かなわない。
#008445
非業の死を遂げた者の、苦しみや、かなしみを、癒せるものなんてあるはずがない。彼らの時は、死の時点でとぎれてしまったんだから。
#008446
記憶というのは、ふしぎなものだ。きっかけがあると、闇の底から、するすると釣り糸にひかれるように、思いがけぬ鮮明さで過去がよみがえってくる。
#008447
わたしらはね、いい男には、いい顔をしたくなるんですよ。
#008448
……迷惑ばっかりかけていたな。
#008449
――そんな借金をしているような顔でおれを見るな。