#010570
──ははあ、と私は何となく思った──なるほど、東京の次は、関西か……。
#010571
今さらながら、現実というやつは荒っぽいものだな、と思い知らされた。
#010572
何でも「利害」の系に翻訳されてしまい、その系の中で、「なわ張り」をめぐって汗くさい死闘が展開される。──こういう現実に対して、「理念」というものは、精緻すぎて、役に立つとも思われない。
#010573
裁量権ががんじがらめにされていて、しかも「投機的」な金の運営、「冒険」や「試行錯誤」が許されないとなると、これでは「自由でヴィヴィッドな創造」に思いきって金をかけるなどということはできまい。
#010574
──そして、その間こちらも六つ年をとっており、物事の考え方や感じ方も、かわってしまっていた。
#010575
ずいぶん「後始末」に手間を食っちまったものだとぼんやり考えていた。少し疲れ、少し年をとったような感じがした。──そして強い酒が無性に飲みたかった。
#010576
それぞれの分野において新しい地平が求められ、追求はすすんでいるが、すすめばすすむほど、一つの分野だけでは、問題が解決しきれない状態が出現しつつある。
#010577
残念なことに疑問はどんどん増えていくばかりで、それも、犬に追いまわされた鳩の群のようにあちらへこちらへと散らばっていく。
#010578
渡る前に橋のことを考えても、乗る前に舟のことを心配しても、しかたがないではないか。
#010579
「それは運命ですね」
幸運か不運か、どちらの運命であるかはたいてい口にされない。