#010770
先方はそう思いたがっているわけで、人は信じたいものを信じるものさ。
#010771
「世の中は過信と後悔でいっぱいでございます。もちろん貴女さまには御想像もおつきにならないでしょうが」
「断言するのは尚早ですよ」
#010772
「よほど旺盛な空想癖の持ち主ですね、貧乏詩人という人種は」
「おそれいります。想像は詩人の病でして」
「さっさと医者にお行きなさい」
「貴女さまも同じ病に罹っておられましょう」
#010773
誰かがわたくしに告げさえすればよかったのです……月世界はわたくしのものだと、そして世界中がそれを認めているのだと。月を眺める際にはわたくしの許可が必要で、夜の半球はわたくしの所有物なのだと。
#010774
一体いつまで生きるつもりなのだろう、科学者どもは──西洋文明とやらは? この星と共に老いてやろう、寿命を共にしてやろうというくらい腹の座った者の一人も、文明の一つも、いないものだろうか?
#010775
「もういいのです。なにもかも遅すぎます」
「この世に遅すぎることなどありませんよ。これほど美しき月夜には、なおさらに」
#010776
メソッドに進歩がない以上、後は毎日ひたすら腕を磨き、勘を冴えさせるしかない。毎日が修羅場だ。
#010777
誰だって、別の人生を夢見ることはあるだろう?
#010778
幸福というのは唯の言葉だ。抽象的概念に過ぎない。
#010779
「俺は自分にあった仕事を探してる。これまでにやった仕事は、どれも、ぴんとこなかったんだ。本来の俺じゃない気がする」
「おまえは飽き性なだけだ。しあわせになれないぞ」