#010990
忘れられるわけがないではありませんか。
#010991
どうしてあんな怪奇小説のような非現実的な事柄に心を奪われていたのだろう。こうして新鮮な朝を迎えてみれば、身のまわりの美しい世界には何ひとつ変わりがないように思える。
#010992
そして何よりも、貴君の友情に深く感謝したい。すっかり絶望して闇の世界をさまよっていた私にとって、貴君との出会いは天から射してきた一条の光であった。
#010993
しかし何かが決定的に変わっていた。のんきに浅瀬を泳いでいるつもりが、知らぬ間に沖合いに流されていたようなものだ。ふと気がつくと、まわりの水がひどく冷たい。そして足の下には底知れぬ深淵が広がっている。
#010994
ほんのしばらくの間、たまたま世界が僕を中心にまわっていた。僕の努力や才能なんて何の関係もなかった。そんな感じがしてならないんだよ。
#010995
打ち明けて言うと、俺はべつにどちらでもかまわないんだよ。それが役に立つのであればね。
#010996
信念なんて何の役に立つ?
#010997
僕の心はつねに君とともにあることを忘れないでほしい。
#010998
もう十分あの人には苦しめられてきたでしょう。あの人が無謀な冒険に出たからといって、どうしてあなたまで道連れにならなければならないの。
#010999
しかし、それらの言葉が口にされることはなかった。
「必ず帰ってきてください。約束ですよ」