#003110
人は己の気にしていることについては、那須与一が発止と放った矢よりも速く見てとるものなのである。
#003111
娘はおっかさんと喧嘩できるもんですけど、倅はできないんですよ。意外なようだけど、そういうもんなんですよねえ。
#003112
宝物のように大事に思うということと、自分のもののように大事に思うということは、似ているようで実はずいぶんと違う。自分のものならば、好き勝手にできるからだ。
#003113
遊びなど、何歳からだってはまりこむことができる。だからこそ、遅くかかった病は重いという諺だってあるのだ。
#003114
一度仕立て直されてしまった古着は、たとえ古着自体が、もういっぺん仕立て直してもらいたいからと自分で自分をほごしたとしても、再び縫い手の興味を引くことはできないのだ。縫い手にとっては、それはいっぺん仕立て直してしまったことのある古着に過ぎない。
#003115
「女好きは病だからなぁ」
「まったく、そうでございますねぇ」
#003116
菓子は美味しゅうございます。生きているということは有り難く嬉しいことでございます。手前は、まだ死にたくはございません。
#003117
やることがない。あとはただ、何らかの形で成果があがるのを待つだけだ。
別にかまいやしないのである。どうせ怠け者を公言し、そう認められてもいる身の上だ。ただ、ぽつねんとごろごろと待っているのも、ちとつまらぬような気がしないでもない。こんなことは珍しい。
――俺も焼きが回ったか。
つまらん、などと思うとは。
#003118
法に裏打ちされた権力ではなく、場数を踏んでいることからくる、みっしり実の熟れた権力だ。その裁量は絶対である。
#003119
酔っていたのだろう。拝まれ、仰がれ、手を合わされることに。