#004930
疲れていた。疲れきっていた。からだじゅうの筋肉が痛い。こんなところに筋肉があったのかと思うようなところまでも痛い。
#004931
これほどの高齢ともなれば、死など恐ろしくはなさそうなものだが……なのに、わたしは恐ろしい。愚かな話ではないかね?わたしがいたところは、つねに暗闇だった。ならば、暗闇を恐れることなどはあるまい?それなのに、死んでしまったらどうなるのか、自分のからだから最後のぬくもりが消えたあとはどうなるのか、どうしても考えずにはいられない。
#004932
彼女のそばにいてやるべきなのに、彼女に道を示してやるべきなのに、このからだがわたしを裏切る。
#004933
目を与えておきながら、永遠に閉じていろ、世界にあふれる美しいものをいっさい見るなと命じるのは、どんなに残酷で狂った神だ?
#004934
むしろ、こう問われるべきかもしれません――“未来を予言させてもよいのか”と。それについては、わたしは否とお答えするのみ――扉のなかには、閉めたままにしておいたほうがいいものもあるのです。
#004935
「あんたの唇はキスをするたえにあるんだぜ」
「唇は唇だ。どの唇もおんなじだ」
「だから、どの唇もキスをするためにあるんだよ」
#004936
だが、祈りは無駄におわった。いつものように、神々は人の祈りになど貸す耳を持たない。
#004937
どうだ、誇らしいか?
#004938
すべての罪は赦される、されど咎は罰せられねばならぬ――。
#004939
まったくもって、女というやつは、われわれ男には測り知れないものがあるな。