#009580
指示を求める書簡を出すのは、その指示がはっきりと予想できる以上、時間稼ぎ以外の何ものでもない。
#009581
〈メロドラマの主人公にでもなったつもりかしら〉
〈ふん、静かにくよくよしていたいんです、放っておいてください〉
#009582
大切に思うごくわずかな身内──兄と母のためなら、彼女はどんな苦労も厭わない。いったいどうすれば、その短いリストに加えてもらえるだろう。
#009583
その言葉になごまないよう心を引き締めた。
#009584
自分は彼に、この恐ろしい冒険に生命をかけてくれる代償か代価を約束しただろうか。思いだせない。
#009585
「得意だったんでしょ。そう言っていたわよね」
彼を見あげる目には過剰な期待がこもっている。
「あのころはいまより若かったし、身軽だったし、馬鹿でしたから」
#009586
いまではそうでもないわ。〝いま〟が〝昔〟を追いやってしまうから。毎日毎日少しずつ。
#009587
でもきっと、ご自分の心はご存じよね。
#009588
不思議です、なぜ人は、そんな野蛮な行為が神々の意にかなうなどと考えるのでしょう。
#009589
ありとあらゆる不安に押しつぶされそうだというのに、何を祈ればいいのかわからない。