#009590
妹の皿からご馳走をかすめとる意地汚い子供になったような気分だが、懸命にそれを否定する。
〈意地汚いのではない。ただ空腹なだけだ〉
#009591
「絶対に絶対に、殺されてはならないのはあなたも同じ。これは命令よ。わかっているわね」
これは、女が〈愛している〉と言わずに〈愛している〉と伝える方法なのだろうか。きっとそうだ。
#009592
〈でもあの人は信じてくれた〉
それは不思議に、接吻よりも深い愛情に思える。
#009593
「これがわたくしの、正真正銘唯一の戦いの、完全な物語です」
賭けてもいいが、そんなはずはない。唯一でも、完全でもあるはずがない。もちろん、もっとも重要なものではあるだろうが。
#009594
想像力に、灌漑用水門のような遮断レヴァがついていればいいのに。
#009595
「おれが考えるに、確かに一度落ちたら生命はない。だけど二度めはないんだから気にすることもないさ」
「じつに筋の通ったご意見です」
#009596
「お母さま! わたしはあの人に自分を売ったりしないわよ!」
母の声がわずかに冷たくなった。
「安売りするのも駄目よ」
#009597
つまりあなたには財産があるのよ。くだらない男との結婚ほどくだらないものはないわ。
#009598
あなたはほとんどいつも自分の頭の中に住んでいるのよ。だから身体がどこにあろうとあまり関係がないんだわ。
#009599
時間を経ていくうちに、夫婦の継ぎ目はこすれてなめらかになってしまうのね。