#009760
勝因のない勝利はあっても、敗因のない敗北はない、と考える彼だった。
#009761
神のごとく崇拝されているわけでもなく、天使のように愛されているわけでもないが、力量をそなえた政治家としての尊敬ははらわれていた。
#009762
しかし、どのような栄誉や報償をもってしても、埋めあわせることが不可能なものは、たしかに存在するのだった。
#009763
さけることのできない闘いなら、闘って、そして勝たなくてはならない――
#009764
あたらしい時代とは、あたらしい不和をもたらす時代ということなのであろうか。
#009765
「……お前、四年前に家に来たときは、もっと素直だったよ」
「ええ、ぼくがこうなったのも、後天的な原因によるのです」
#009766
「ああ、なににもいいことのない人生だった……。いやな仕事はおしつけられるし、恋人はいないし、せめて酒でも飲もうとすれば叱られるし……」
「風邪ぐらいで気分をださないでください!」
#009767
花粉をはこんで荒地にあたらしい花を咲かせる風に、意思はないが、たしかにそれは風の功績なのである。
#009768
論理によって説得するのではなく、情感に訴えることを、本来、彼女は好まなかった。だが、今度の場合、頂上へいたる唯一の道を歩くしかないのである。
#009769
利害と打算を基本要因として彼らと折衝する計画をたてることに、なんらためらいをおぼえなかった。武人には武人らしく、商人には商人らしく、悪党には悪党らしく接するべきであろう。