辻占 #010982

#010982
たとえばひとつの数学的発見をしたとしよう。それは一見、非の打ちどころのないものに見える。そんなときはじつに幸福だ。この手に『真理』を掴んだという喜びが私を充たす。ところが翌日になってみると、その発見に小さな穴が見つかる。私はなんとかその穴を繕おうとするが、そうやって懸命に取り組むほど、かえってその穴は広がっていくのだ。長い苦闘の末、必死で救おうとしていたものがゴミ屑にすぎないことに私は気づく。この手に掴んだと思っていた『真理』は、いつの間にか塵のように消えているのだよ。
(「シャーロック・ホームズの凱旋 (単行本) 」)

シャーロック・ホームズの凱旋画像
シャーロック・ホームズの凱旋
(ISBN: 9784120057342)
¥1,980
在庫あり
中央公論新社
森見登美彦