#010460
──神よ、仏よ、どうかわたくしたちから、この子たちから、怨みを遠ざけて下さい。
#010461
わからなかった。いつも自分に向ける、あの柔和な微笑みの裏で、ひどく悲しんでいるだろうと想像するだけだ。
その悲しみが、どれほど深いものであるか、推し量ることもできない。
果たしてこの自分が、癒やし、慰めることが可能な悲しみであるのかも。
この自分が彼にしてあげられることが、なんなのかも。
それらがわかれば、と願わずにはいられなかった。
#010462
ただ微笑み合う。それができるようになるまで、五年もかかった。
#010463
疎外と孤独。それらが人を鬼にするのだ。
#010464
あくまで彼女たちは打算で動く。計算で誰につくかを決める。
#010465
自分のことを、これほど思ってくれる人がいる──そう、子に確信させることが大事だった。
#010466
そう思うだけで、胸の奥がひどく切なかった。いつかこうした悲しみが消える日が来ると信じることもできないでいた。
#010467
寂しくはあったが、孤独ではなかった。
#010468
──怨みの全てが、これで晴れたと信じたい。
#010469
──どうしてこうも天命は厳しいのか。
いったい、この眼が涙で曇らずに済むときは来るのだろうかと悲嘆した。